インドの刺繍かばん
空想アトリエ no.84
日曜の朝だ。変わらずいつも通りの時間に起きて、シャワーも浴びて準備も終えた。壁掛けのCDプレイヤーで音楽を流して、母のパン屋のサンドイッチとあたたかい珈琲をいつものマグに入れて部屋で朝食をのんびり取った。
余裕な朝を過ごして、7時の電車に乗り込んだ。日曜日なので少しだけすいたホーム、それでもスーツを着たサラリーマン達はまばらに立っていた。最近は席が横並びの電車もあるけれど、鹿児島本線といえば赤いなんとも言えない柄のシートに縦並びの席だ。向かい合う席が空いていたので、進行方向側に座った。
うとうといつの間にか眠っていたのか、向かいに座る女性に足があたってしまった。すると向こうから今にも言いたかったと、そちらのかばんがかわいくてかわいくて、とわたしの膝上にあるかばんを褒めてくれた。エスニックのお店で買った、インド製のお花とか模様の刺繍がたくさん入ったピンクのかばん。
洋服にあまり興味がないので、私服は適当だ。出勤にはシンプルなブラウスとジーンズを着ていくことにしているので、3着のブラウスと2着のジーンズを代わる代わる着ている。パターソンのようだ。考えなくていい。とても楽。
洋服がシンプルなので少し派手なそのかばんを使っていた。すべて手縫いなんて凄いですよねなんて話すことがあるなんて思いもしなかった。
その女性は白い髪を綺麗に整えていた、ドット柄のスカートを身に付けていて、私もそのスカートが素敵ですねと言いたくなったけれど、言えなかった。褒められたら褒めて返す、あとで思い立って、あとでそのスカートにも気づいたので言わなかった。いいなと思ったときに褒められるひとに私もなりたいな。
勇気とかじゃなくて、気づくこと。知っているけれど、なかなか。ね。